100年企業のための事業承継 後継者が先に亡くなるリスクと自社株の防
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まさかの「先死」がもたらす他家への自社株流出リスク
「自分が倒れたら、この会社はどうなるか」。多くの経営者様がご自身の「もしも」に備えた事業承継を真剣に考えておられます。
しかし、もう一歩先を想像してみてください。「引き継いだはずの後継者が、自分より先に亡くなってしまったらどうなるか」という点です。
人生100年時代、社長自身が元気なうちであっても、経営権をバトンタッチしたはずの我が子が、不慮の事故や急な病気などで先に旅立ってしまうという悲劇は、決してゼロではありません。ここに100年企業の存続を揺るがす大きな盲点があります。
後継者の「万一」を想定しておくことは、会社を確実に永続させていくために絶対に欠かせないリスク管理の第一歩です。これまでは「まさか我が子が自分より先に…」という感情的な理由から、このリスクに対する具体的な防衛策を真面目に議論することを避けてしまうケースが多々ありました。しかし、いざ相続が発生してから慌てても、 既に渡してしまった自社株の所有権を動かすことは容易ではありません。生前贈与や売買で自社株を譲渡したものの、何の対策もないまま後継者である息子(または娘:このコラムでは息子と仮定します)が先に亡くなった場合、その自社株は原則として息子の配偶者であるお嫁さん(またはご主人)に相続されます。もしお嫁さんが他家で再婚して疎遠になったり、関係がこじれたりすれば、先祖代々の経営権は無関係な他家の手に渡り、100年の歴史が一瞬にして危機に瀕するのです。
多くの経営者が誤解する「譲渡制限株」の決定的な落とし穴
このような自社株の流出リスクについて詳しくお伝えすると、多くのオーナー経営者様はこうおっしゃいます。「うちの会社の株式は、定款(ていかん)で『譲渡制限』をかけているから、知らない人に株が渡ることは絶対にない。だから何も心配ないよ」と。
しかし、ここには実務の現場において、見落とされがちな大きな誤解が存在します。
結論からお伝えしますと、「譲渡制限」をかけているだけでは、相続による自社株の社外流出を完全に防ぐことは全く不可能なのです。なぜなら、株式の譲渡制限ルールというのは、あくまで「生きている株主が、他人に株を勝手に売却したり贈与したりして会社の許可なく名義を変えること」を制限する仕組みに過ぎないからです。
一方で「相続」というのは、人が亡くなったことに伴い法律上、本人の生前の意思や会社の事情とは関係なく強制的に財産が移転する手続きです。法律に基づいて、会社の承認や株主総会・取締役会の決議なども一切関係なく、相続人の間で遺産の分割内容が決まった瞬間に「当然に」その権利が移転します。そのため、いくら会社側が譲渡を認めないと主張したところで、お嫁さんは法律に基づいて自社株を正当に引き継ぎ、新たな株主として会社に登場することになります。言葉のイメージだけを過信していると、この最初の法律の壁に激突して大きなトラブルになります。
売却拒否で会社に突きつけられる「多額の買い取り義務」
お嫁さんに相続された株が、他家や第三者、あるいは競合する他社などに売却されそうになった時、会社は防衛できるでしょうか。この段階になって初めて、会社の定款にある譲渡制限ルールが機能し、会社は株の売却を「承認しない(拒否する)」という防衛の決定を下すことができます。これで他者への流出は防げますが、話はここで終わりません。
法律上、会社が株の売却を拒否した場合、その代わりに会社(または会社が指定した人)は「その株を、お嫁さんから自分たちの身銭で買い取らなければならない」という非常に重い義務を背負うことになります。ここで最大の問題となるのが、株を買い取るための「資金」です。
長年業績を積み重ねてきた100年企業ほど自社株の評価額は高騰しているため、お嫁さんから株を買い戻すには、たとえ数パーセントの株式であっても数千万円から、時には数億円という非常に莫大な手元キャッシュ(買い取りのために裁判所が決定する適正な評価額に準じた資金)を急遽用意しなければなりません。さらに、法律で定められた買取り手続きの期限は非常に短く設定されており、期限内に資金を用意できずにモタモタしていると、自動的に売却を「承認した」とみなされてしまいます。後出しのブレーキに頼るだけでは、突然の巨額な買い取り義務を突きつけられ、財務を致命的に傷つける原因になるのです。
買い取るまでの間に使われる「お財布チェック権」の脅威
もし、会社側が買い取り資金をすぐに用意できなかったり、価格交渉が決裂して回収が長引いた場合に、会社が直面するもう一つの深刻なリスクがあります。それは、株主となった配偶者に、法律上保障された強力な「株主の権利」を会社に対して徹底的に行使されることです。
株主には、会社の意思決定に参加する議決権だけでなく、経営状況を厳しく監視するための強力な権利が与えられています。その代表例が「会計帳簿閲覧請求権」です。これは、わずかでも会社の株式を持つ株主であれば、会社のすべての会計帳簿や領収書、取引の細かい伝票などを「すべて見せなさい」と会社に対して正式に請求できる権利です。この権利は株式の数にかかわらず株主に広く保障されているものであり、会社は正当な理由がない限り拒否できません。
もし、お嫁さんとの関係がこじれ、相手に弁護士などの専門家が就いた場合、このお財布チェック権を武器に会社を揺さぶってきます。過去のグレーな接待交際費の使い方、役員報酬の設定、親族間での不透明な資金のやり取りなどがすべて白日の下にさらされることになるのです。たとえ「議決権のない株(無議決権株式)」にして渡していたとしても、この閲覧請求権自体を奪うことは法律上できません。買い戻しの交渉において、会社側は極めて大きな弱みを握られ、相手の言い値で買い取らざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
会社を守り抜くために生前から先回りする「三つの防衛策」
このように、問題が起きてからブレーキをかける「譲渡制限」だけに頼った対策では、大切な会社を守り切ることはできません。必要なのは、相続が起きてしまう前の段階から、自動的に自社株を創業家に戻すように仕組んでおく「先回り」の防衛システムです。具体的には、以下の三つの対策を事前にセットで組み立てておく必要があります。
1つ目は、最も手軽で効果的な「後継者自身の遺言」です。
生前贈与で株を譲り受けた息子が、元気なうちに「万が一、自分が先に亡くなった場合は、この自社株を父や次の後継候補に相続させる」という遺言を書いておけば、お嫁さんへの流出を最も手軽に、直接防ぐことができます。
2つ目は、「家族信託(自社株信託)」の活用です。
息子が先に亡くなった場合、自社株の権利がお嫁さんではなく、元の社長や次の後継候補に自動的に移動するように設計します。普通の遺言では不可能な「次の次」以降の引き継ぎ先まで指定できるのが強みです。
3つ目は、定款を変更し、後継者が亡くなった瞬間に自動的に会社が株を回収できる「取得条項(しゅとくじょうこう)付き種類株式」を発行しておくことです。
相続発生と同時に株が会社に戻るため、話し合いや価格、資金繰りで揉める心配がありません。
この三重の鍵をあらかじめ用意し、何があっても会社を止めない仕組みを整えておくことこそ、100年企業の未来を託された社長の最大の責任です。
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NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」早くから認知症対策のへの必要性を感じ、10年以上前から家族信託に取り組む。取扱い実績の総額は100億円を超える。
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