【遺言制度改正】新しい「保管証書遺言」って何?スマホで遺言できるの?

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はじめに

令和8年6月17日に参議院も通過し、遺言制度に関する新しい法律が国会で成立しました。

今回の大きな法改正の背景には、現代の日本が抱える以下の深刻な社会問題があります。

大きな法改正の背景
*子供がいない方の増加: 相続が発生した際、法定相続人が兄弟姉妹や甥姪などに広がり、関係者が多数になることで話し合い(遺産分割協議)が非常に複雑化しています。
*所有者不明不動産の爆増: 相続手続きが困難になることで、手付かずの不動産や空き家が増加し、社会問題化しています。
*家庭裁判所の負担増加: 相続争いが増え、家庭裁判所の業務が圧迫されています。

国としては大きな問題ととらえ、「遺言さえあればこれらの問題の多くは防げる」という考えのもと、遺言を作れる人を増やし、遺言作成のハードルを極限まで下げることを目的に、今回の法改正が行われました。

新しい制度「保管証書遺言」とは


新しい制度「保管証書遺言」とは
今回の改正の目玉となるのが、全く新しい遺言の形である「保管証書遺言」です。

これまで遺言といえば「全文手書き(自筆証書遺言)」か「公証役場へ行く(公正証書遺言)」が基本でしたが、新制度ではそのハードルが大きく下がりました。

ここまでハードルが下がりました


ここまでハードルが下がりました
*パソコンやスマホで全文作成可能: 本文から財産目録まで、すべてデジタルで作成してOKです。
*印鑑不要: 実印も印鑑証明書も必要ありません。
*Web会議での提出が可能: 作成した遺言を「遺言書保管官」へ提出する際、わざわざ法務局へ足を運ばずとも、自宅からパソコンやスマホのWeb会議(映像と音声)を通じて手続きができるようになります。
*費用が安い: 法務局での手数料は数千円程度に収まる見込みです。

地域によっては「近くに法務局や公証役場がない(車で何十キロも走らないといけない)」といった事情もありますが、Web会議の導入により、全国どこにいても平等に負担なく遺言が作れるようになります。

作成手順と気になるポイント


作成手順と気になるポイント
作成した遺言は、遺言書保管官の前で「全文を声に出して読み上げる」必要があります。読み上げられた内容と提出されたデータが一致しているかを確認した上で、国がデジタルデータとして安全に保管してくれます。PDFで提出する場合はマイナンバーカード等での電子署名が必要になる見込みですが、コンビニ等で紙に印刷して署名したものを提出することも可能です。
なお、Web会議の際に、家族や専門家が同席できるかどうかについては、現時点では「本人の真意を確保するため(家族からの圧力を防ぐため)、同席は認められない方向」で議論されています。

この新制度は、具体的な運用ルールをこれから決定し、3年以内(2029年頃)を目処にスタートする予定です。

保管証書遺言、使うときの注意点(デメリット)


保管証書遺言、使うときの注意点(デメリット)
作るのが非常に簡単になる一方で、実際に相続が発生して「遺言を使う時(ご家族が手続きをする時)」には、いくつか注意すべきハードルがあります。

① 検認手続きは不要になる(大きなメリット)

家庭裁判所での「検認」という時間のかかる手続きは不要になり、この点はご家族にとって大きなメリットです。

② 遺言の内容を見るために「大量の戸籍」が必要


大量の戸籍
法務局に保管された遺言のデータを発行してもらうためには、原則として「法定相続人が全員分かる戸籍一式」と「法定相続人全員の住民票」を法務局へ提出しなければなりません。

最寄りの役所で出生からの戸籍が取れる制度(広域交付)が始まりましたが、「子供がいないご夫婦」「おひとりさま」「相続人以外に寄付をしたい方」などの場合、広域交付が使えず、相続人が遺言のデータを受け取るためにが全国から戸籍をかき集めるのに大変な労力と時間がかかるケースがあります。遺言のデータを受け取るまでは、相続人といえども法務局に保管された遺言の内容を確認することはできません。

③ 引っ越しや名前が変わった時の「変更届出」が必須

遺言を作った後、「遺言者本人」「財産をもらう人(受遺者)」「遺言執行者」のいずれかの住所や氏名が変わった場合、法務局へ変更の届け出が必要になります。これを怠ると、いざという時に法務局からの通知が届かなかったり、スムーズに遺言を受け取れなかったりする不具合が生じる可能性があります。

④ 紛争時の「証拠力」は公正証書に劣る

法務局の遺言書保管官は、形式的なチェックや読み上げの確認はしてくれますが、「遺言の内容が本人の希望通りか」「本人に判断能力(意思能力)がしっかりあるか」といった深い部分までの担保はしてくれません。そのため、後から「本当に本人が納得して作ったのか」と親族間で揉めた際の証拠力は、公正証書遺言ほど高くはないと考えられます。

結論

上記のような事情から、遺言者の作成時の負担は減るものの、「残されたご家族の負担を極力軽くし、確実に手続きを進める」という観点では、引き続き『公正証書遺言』を選択する方がベターであるという専門家としての見解は変わりません。

緊急時の「動画遺言」

緊急時の「動画遺言」
もう一つの大きな目玉として、スマホを活用した「動画形式の遺言」が初めて認められることになりました。

*これまで「船が遭難した時」などに限られていた緊急時の遺言制度が、地震などの深刻な災害時にも範囲が広がりました。
*命の危機が迫っている緊急時に、自分のスマホで「誰に財産を相続させたいか」を録画し、家族のLINEグループや特定の相手に動画を送信するだけで、遺言として認められる可能性があります。
*※注意:スマホの中に動画を保存しているだけや、SNS(Facebook等)に不特定多数に向けてアップロードするだけでは無効です。必ず「特定の相手への送信」が必要です。

→ ただし、この動画遺言は送信して終わりではありません。作成後、動画を受け取ったご家族などが、家庭裁判所に動画を持ち込んで「確認手続き」を行う必要があります。
なお、遺言者が無事に回復し、通常の方式(自筆証書や公正証書など)で遺言を作成できる状態になってから6ヶ月間生存した場合は、この動画で作った緊急時の遺言は失効します。

緊急時の「動画遺言」

終活には、もはや「遺言」は必須の時代へ

遺言を作るか作らないかについては、今までは「個人の意識の問題」とされてきました。しかし、高齢化が進み相続関係が複雑化している昨今、遺言がないことで困るのは、親族だけではありません。

放置された不動産がある場合の近隣住民や自治体、ひいては日本全体の問題にもなり得ます。こうした状況に対し「国としても何とかしなければいけない」という強い危機感が、今回の法改正で遺言作成のハードルを異例とも言えるレベルで大幅に下げることにつながったと感じています。

遺言は、準備してある方とそうでない方とで、その後のご家族の状況に天と地ほどの差が出るものです。

1. 対策の効果

(a) まずはハードルの下がった自筆証書遺言(法務局の保管制度の利用など)を書くだけでも、何も対策していない状態から60点、70点ほどまで大きく進歩します。
(b) そこから、費用や手間はかかっても「公正証書遺言」にすることで、さらに点数を上乗せし、ご家族にとってより安全で確実なもの(100点に近い状態)にすることができます。

つまり、「遺言が一つあるだけ」で、将来起こりうる多くのトラブルや煩雑な手続きが解決できると言えます。

既に内容が決まっている方は、ぜひどのような形であれ遺言として形に残してください。また「我が家の場合はどういう内容にすればいいのか」「新制度と今の制度、自分にはどれが合っているのか判断できない」というご本人様やご家族様につきましては、手遅れになる前に、ぜひ一度当事務所のような専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。ご家族の将来の円満のために、最適な選択肢をご提案させていただきます。

ご家族の将来の円満のために

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NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」

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