親が認知症になると、なぜ実家は売れなくなるのか?
久しぶりに帰省した実家。見慣れた風景のはずなのに、ふとした瞬間に「おや?」と足が止まることはありませんか。
- ●冷蔵庫を開けると、賞味期限の切れた同じ食品がいくつも並んでいる。
- ●整理整頓が得意だったはずの親の机に、銀行や役所からの郵便物が未開封のまま積み重なっている。
- ●会話はスムーズに進んでいるようで、実はさっき聞いた質問を何度も繰り返している。
「少し、年をとったかな」「たまたま疲れているだけだろう」そう自分に言い聞かせたくなる気持ちは、とてもよく分かります。親の変化を認めたくないのは、子が親を想うごく自然な愛情の裏返しだからです。
しかし、司法書士として多くのご家族に接してきた私たちは、あえてお伝えしなければなりません。その「小さな違和感」を見過ごしてしまった結果、ある日突然、実家が「誰の手にも負えない資産(負動産)」に変わってしまうという厳しい現実があることを。
この記事では、認知症が不動産売却に与える法的な影響と、家族が直面するリスク、そして残された唯一の解決策について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
なぜ「認知症」は実家売却の壁になるのか?
実家を売却するという行為は、単に「家を譲る」というだけのことではありません。法律上は、極めて複雑で重要な「法律行為(契約)」の積み重ねです。「契約」を支える「意思能力」という大前提
不動産を売るためには、不動産会社との媒介契約、買主様との売買契約、そして法務局で行う所有権移転登記など、多くの手続きを親本人が行わなければなりません。これらすべての契約に共通する大前提が、「意思能力(=自分の行為の結果を理解し、判断できる能力)」です。
認知症によってこの判断能力が不十分だとみなされると、たとえ本人が署名・捺印をしたとしても、その契約は法律上「無効」になってしまいます。
なぜ「本人の意思」がこれほどまでに重視されるのか
「家族が同意しているのだから、いいではないか」と思われるかもしれません。しかし、日本の法律は、個人の財産権を強く保護しています。もし判断能力が衰えた方の契約が簡単に認められてしまったら、悪意のある第三者が不当な安値で家を奪い取ってしまうかもしれません。本人の自由な意思を守るための「ブレーキ」として、このルールが存在しているのです。
「子どもが代わりに売る」ことができない理由
よくある誤解に、「私が親の代理人として売ればいい」というものがあります。しかし、現実はそう簡単ではありません。- ●実印や権利証を持っていてもダメ: それらはあくまで「道具」に過ぎません。本人の意思を確認せずに使うことは、後々のトラブル(契約の取り消し)を招きます。
- ●「任せる」という委任状があってもダメ: 認知症が進んだ後に書かれた委任状は無効ですし、元気な頃に書いたものであっても、本人の判断能力が失われれば、その委任関係自体が終了または停止すると判断されるのが一般的です。
銀行や不動産会社が「NO」と言う理由
不動産会社や金融機関、そして私たち司法書士は、契約の場において「本人の意思確認」を最も厳格に行います。もし、判断能力がない状態で売却手続きを進めてしまったら、後から他の親族などから「あの契約は無効だ」と訴えられるリスクがあるからです。「親の介護費用が必要なんです」という切実な事情があっても、法律の専門家はリスクを無視して手続きを進めることはできません。
「売れない実家」が家族に残す、目に見えない3つの負担
実家が売却できず、いわゆる「資産凍結」の状態になると、ご家族には多大な負担がのしかかります。金銭的な負担(維持費の流出)
誰も住んでいない空き家であっても、所有しているだけでお金は出ていきます。- ●固定資産税・都市計画税: 毎年必ず発生します。
- ●維持管理費: 庭の草刈り、建物の修繕、火災保険料。
- ●見えないコスト: 遠方に住む子が管理のために通う交通費や時間。
建物と土地の資産価値低下
建物は人が住まなくなると急速に傷みます。カビの発生、配管の劣化、庭木の越境。資産価値が下がる一方で、近隣からのクレーム対応など、精神的な疲弊も増えていきます。「介護資金のショート」という致命的な問題
多くの方が、「実家を売ったお金で、親を良い施設に入れたい」と考えています。しかし、認知症が進行した後にその計画を立てても、時すでに遅し。自宅という大きな資産がありながら、現金がなくて介護サービスを妥協せざるを得ない「資産はあるのに、お金がない」という皮肉な事態に陥ってしまいます。「成年後見制度」は万能の解決策ではない?
認知症になってから家を売る唯一の法的方法として紹介されるのが、「成年後見制度」です。家庭裁判所が「後見人」を選び、後見人が本人に代わって財産を管理します。しかし、この制度には利用前に知っておくべき「高いハードル」があります。
項目 成年後見制度の現実
- ●自由度 家庭裁判所の監督下に置かれるため、家族の思い通りに資産を動かせない。
- ●自宅売却の制限 「居住用不動産」の売却には裁判所の特別許可が必要。ハードルが高い。
- ●コスト 専門家(弁護士・司法書士等)が後見人になると、月額数万円の報酬が一生続く。
- ●終了時期 本人が亡くなるまで続く。一度始めたら「やっぱりやめた」はできない。
成年後見制度は、あくまで「本人の財産を守る」ための公的な制度です。家族が希望する「スムーズな資産承継」や「柔軟な活用」を目的に作られたものではない、という点に注意が必要です。
「元気なうち」にしか選べない、最善の選択肢:家族信託
では、私たちはどうすればよいのでしょうか。その答えは、「親の判断能力がしっかりしているうちに、将来の管理権限を信頼できる家族に移しておくこと」です。これを実現するのが「家族信託(実家信託)」という仕組みです。
家族信託で実現できること
家族信託を利用すれば、例えば「親が元気なうちは親が住み、もし認知症などで判断能力が衰えた場合には、あらかじめ決めておいた子が、裁判所の許可なく自宅を売却できる」という設計が可能です。- ●売却代金の管理: 売ったお金は子の名義の専用口座で管理されますが、それは「親の介護費」として使うためのものです。
- ●納得感: 親が元気なうちに「将来もしもの時は、この家を売って私(親)の介護に使ってね」という意思表示を契約書に残すため、兄弟間でのトラブルも防げます。
おわりに:親も、子どもも、誰も悪くないからこそ
親は、「子どもに迷惑をかけたくない」と願い、子どもは、「いつまでも元気でいてほしい」と願う。
この美しい想いのすれ違いが、結果として「対策の遅れ」を招き、家族を苦しめる結果になってしまうのは、あまりにも悲しいことです。認知症は、誰にでも起こりうる老化現象のひとつです。決して恥ずかしいことでも、隠すべきことでもありません。
「まだ大丈夫」と思える今この瞬間こそが、実は最も多くの選択肢があり、家族全員が笑顔で将来を語り合える貴重な時期なのです。司法書士法人ソレイユは、単なる法律の手続きを行う場所ではありません。
ご家族のこれまでの歩みを尊重し、これからの安心を共に形にするパートナーでありたいと考えています。
「実家をどうすればいいか、漠然とした不安がある」
その想いを、まずは私たちに聞かせてください。それが、ご家族の未来を守る最初の一歩になります。
【Q&A】よくあるご質問
Q1. すでに軽度の認知症(MCI)と診断されました。もう手遅れですか?A. 診断=即座に契約不能、ではありません。ご本人が契約の内容(売却の意味や目的)を理解できれば、手続き可能なケースもあります。専門家による「意思能力の確認」が必要ですので、お早めにご相談ください。
Q2. 家族信託と遺言、どちらを優先すべきですか?
A. 遺言は「亡くなった後」の指定ですが、家族信託は「生きている間(認知症になった後)」の管理もカバーします。実家売却を視野に入れているなら、家族信託の方が適している場合が多いです。
Q3. 実家が地方にあります。対応可能ですか?
A. はい、もちろんです。不動産の場所を問わず、ご相談を承っております。オンラインでの面談も活用し、全国のご家族をサポートしています。
「うちの場合はどうなるの?」と思われた方は、ぜひ一度ソレイユの個別相談をご活用ください。
プロの視点から、あなたのご家族に最適なプランをご提案させていただきます。
SEARCH
代表者紹介
NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」早くから認知症対策のへの必要性を感じ、10年以上前から家族信託に取り組む。取扱い実績の総額は100億円を超える。
家族信託業界の先頭に立ち、相談者様が安心して使えるようグレーゾーンを明確化にも注力。税理士と協力して行った国税照会により公表されたルールが業界のスタンダードにもなっている。
実績、お客様へのアフターフォローサービス、家族信託のお手伝いをしたお客様の声は、『代表者紹介ページはこちら』ボタンをクリック
メディア出演履歴
■テレビ出演
・NHK「あさイチ」
・NHK「クローズアップ現代プラス」
・NHK「ニュースウォッチ9」
・NHKラジオ「三宅民夫のマイあさ!」
・日本記者クラブにて記者会見
CATEGORY

