ひどいと言われてきた成年後見制度が改正されます
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〜費用や使いやすさはどう変わる?専門家が先読みします〜
「後見人がまったく会いに来ない」「不動産を勝手に売られてしまった」「亡くなるまで制度をやめられない」――。
こうした声に代表されるように、成年後見制度はこれまで「ひどい」「使いたくない」という不安や不満を多く集めてきました。
そうした声を受け、法制審議会によって改正案がまとめられ、現在は国会で審議が進んでいます。
本記事では、専門家の視点から「何がどう変わるのか」「本当に使いやすくなるのか」を先読みしてお伝えします。
目次
第1部 改正のポイント:何が変わるのか
問題① 後見人が本人にまったく会いに来ない
➡ 改正案では、後見人・補助人による「本人の意向確認行動」が義務化されます。
後見人は、本人の意向を確認するための行動をとり、そこで汲み取った希望を後見業務に反映させなければなりません。これにより、「会いに来ない後見人」の問題は大きく改善されると予想します。
また、既存の後見人を交代させるための条文も新たに追加される予定です。
これまでは横領・虐待などの悪質なケースでなければ解任が難しい状況でしたが、改正後は家庭裁判所が「本人の利益のために特に必要があるとき」と認めれば、後見人を変更できるようになります。さらに、この申立ては本人・家族からも行えるようになります。
問題② 後見人に不動産を勝手に売られてしまう
➡ 後見制度が「代理型」から「よりそい型」へと根本から変わります。
令和4年(2022年)10月に国連の障害者権利委員会から、日本の後見制度は後見人に過大な権限を与えており、本人の権利を制限し過ぎているという内容のとの指摘がありました。
この是正のため、現行の「後見・保佐・補助」の3類型を一部廃止し、「補助」類型に一本化される予定です。
新しい後見制度(補助)の基本的な仕組みは次の通りです。
(a) 補助人は、原則として代理権を持たないところからスタートします。
(b) 手続きは本人と補助人が一緒に銀行等に出向き、補助人が書類を確認し、問題なければ本人がサインするのが基本です。
(c) 補助人だけで行いたい場合は、家庭裁判所に申し立てをして、個別に代理権の付与を受ける必要があります(いわゆる「トッピング方式」、包括的な代理権は取得できません)。
(d) 重度認知症・重度知的障害の方には、「特定補助」という仕組みが新設される予定です。
「特定補助」とは、通常の補助に包括的な取消権を追加するオプショントッピングです。騙されたような契約を補助人の判断で一括して取り消せるようになります。ただし、包括的な代理権は認められず、手続きは原則として本人と補助人が一緒に行う必要があります。なお、特定補助の利用には医師の鑑定が原則として必要でハードルを設けています。
問題③ 本人が亡くなるまで制度が続いてしまう
➡ 改正後は、家庭裁判所が必要ないと認めた場合、補助の審判を職権で取り消さなければならないとされます。
これまでは、制度を終わらせるには本人や家族が積極的に家庭裁判所へ申し立てなければ審議すら行われませんでした。改正後は家庭裁判所が1年ごとに必要性を審議し、不要と判断した場合には職権で取り消す運用になります。
この制度を円滑に運用するため、次の仕組みも導入される予定です。
補助人からの報告書に、補助継続の必要性に関する要素を含めること
補助終了後の地域での受け入れ体制を確認するため、各市区町村に「中核機関」を設置すること
第2部 懸念点:本当に使いやすくなるのか
改正によって問題点が改善される方向であることは間違いありません。一方で、利用する側にとって本当に「使いやすく」なるかどうかについては、現時点では不透明な部分も少なくありません。以下に懸念点を整理します。
懸念① 途中で制度を本当にやめられるのか
(a) 軽度認知症や軽度知的障害の方など、自分の意向をある程度伝えられる方は、補助の取り消しが進めやすくなると予想しています。
(b) 一方、重度認知症や重度知的障害の方が補助を取り消した後、預貯金の管理はどうなるのか。家族が管理するという形で取り消しを認めてもらえるのかどうかは、家庭裁判所の判断次第となるため、現時点ではまだ不透明です。
懸念② 費用はどうなるのか、手続きが遅くなるのでは
(a) 「よりそい型」への転換により、本人と補助人が時間を合わせて一緒に手続きを行う場面が増えます。その分、手続きに時間がかかる可能性があります。
(b) よりそいや意向確認行動の義務化などで補助人の業務量は増えると予想されますが、報酬基準が現行のまま維持されるかどうかはまだ明確ではありません。
(c) 現在の後見制度の基本報酬は年間24万円〜72万円程度ですが、これより増える可能性も考えられます。
(d) なお、改正法では新制度スタート後に家庭裁判所が補助人の報酬を集計・公表することが決まっており、利用前に費用を見通しやすくなる点は前向きな変化です。
懸念③ 意向確認はどうやって行うのか
(a) 専門家が補助人に就く場合、初対面というケースが大半です。初めて会った補助人を本人が信頼して本音を話せるのか、補助人の傾聴力・共感力・信頼性がより強く問われることになると思います。
(b) とりわけ不透明なのは、重度認知症や重度知的障害のある方の意向確認をどうやって行うかという点です。
法制審議会の議論では、「補助人が本人に情報提供をし、本人からの陳述を聞く」という例が示されましたが、そもそも話すことが難しい方の場合はどうするのか、明確な答えはまだ示されていません。
実際に重度知的障害を持つ方のご家族からも、「どうやって確認するのか」という疑問の声をいただいています。
新しい法律では、「話が難しいから」という理由で意向確認を省略してはならないとされています。一方で、確認を尽くしたが結果的に確認できなかった場合は義務を果たしたものとする、とも定められています。ただし、その「尽くした」の基準がどの程度まで求められるのかは、現時点では分かりません。
※ このほかにも、制度が実際に始まってみないと見えてこない部分があります。今後の動向を随時注視してまいります。
第3部 事前の対策はますます重要です
「新しい後見制度ができるなら、事前の対策は不要になるのでは?」というご質問をいただくことがあります。
私たちの考えでは、むしろ事前の対策の重要性はこれまで以上に高まると考えています。
改正後の後見制度は、軽度認知症などの方が財産を騙し取られるといった問題への対応という点では、以前より使いやすくなった印象があります。
一方で、重度の認知症などにより財産が凍結してしまう問題については、今回の改正だけでは十分にカバーできない部分も残っています。
「家庭裁判所が『本人の利益のために特に必要があるとき』と認めれば、後見人を変更できる」
「改正後は家庭裁判所が1年ごとに必要性を審議し、不要と判断した場合には職権で取り消す運用」
後見人を変えられる、とか、やめられる後見、と、簡単に言われていますが、
結局は家庭裁判所の判断になります。
そして財産のある方とそうでない方とで、
ハードルが変わってくる可能性もあります。
それはそれで合理的な理由はあると思いますが、
将来の改正を楽観しないで着実に事前の対策を進めていくことが良いと考えています。
また、改正の中には「任意後見と補助制度の併用が可能になったことで、取消権なども使えるようになる」など、事前に対策をしていたご家族だけが受けられる恩恵もあります。
さらに、家族信託も、認知症による財産凍結リスクへの有効な対策のひとつです。
※重い認知症等で実家を売れず介護費用を捻出できない問題や、アパート経営が止まってしまう問題などへの解決策。
「事前の対策は必要か」「我が家に合った対策は何か」
ぜひご家族でお話し合いの機会を持ってみてください。
本記事がその参考になれば、大変嬉しいです。
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NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」早くから認知症対策のへの必要性を感じ、10年以上前から家族信託に取り組む。取扱い実績の総額は100億円を超える。
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