【解説速報】任意後見監督人申立てが過去最高!親族は選ばれる?令和4年度成年後見統計データから見る最新の成年後見状況
<後見制度の傾向>
(1)任意後見監督人選任の審判申立ては伸び過去最高
(2)申立の動機は、預貯金などの管理解約がトップ、全体的に上昇
(3)申立人属性は、1位 市区町村長、2位 本人、3位 子という結果に
(4)制限あり親族後見人が48.9%→51.5%に上昇
このコラムでは、(1)任意後見監督人選任の審判申立ては伸び過去最高
(2)申立の動機は、預貯金などの管理解約がトップ、全体的に上昇
(3)申立人属性は、1位 市区町村長、2位 本人、3位 子という結果に
(4)制限あり親族後見人が48.9%→51.5%に上昇
介護に振り回されず、
自身の老後資金や安心生活を
守っていくために必要な情報を配信しています。
今日は3月17日に発表された
令和4年度の『成年後見関係事件の概況』について
解説します。
『成年後見関係事件の概況』では、
昨年の申立件数や、後見人と本人との関係などを
集計し、最高裁判所事務総局家庭局が公開している
資料になります。
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成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―(最高裁判所事務総局家庭局)
成年後見制度がもっと使いやすくなれば、
ほとんどのご家族で家族信託は不要に
なると考えています。
では後見制度の現状はどのように
なってるのかについて、
注目箇所をピックアップして、
見ていきます。
今日の記事を最後まで
ご覧いただけると、
後見制度の傾向がわかります。
そうすると認知症でつまずく問題の
先読みができ、対策が立てやすくなります。
現場知らないと対策も出来ませんからね!
1つずつ見ていきます。
(1)任意後見監督人選任の審判申立ては伸び過去最高
1 申立件数について
○ 成年後見関係事件(後見開始、保佐開始、補助開始及び任意後見監督人
選任事件)の申立件数は合計で39,719件(前年は39,809件)
であり、対前年比約0.2%の減少となっている。
○ 後見開始の審判の申立件数は27,988件(前年は28,052件)
であり、対前年比約0.2%の減少となっている。
○ 保佐開始の審判の申立件数は8,200件(前年は8,178件)
であり、対前年比約0.3%の増加となっている。
○ 補助開始の審判の申立件数は2,652件(前年は2,795件)
であり、対前年比約5.1%の減少となっている。
○ 任意後見監督人選任の審判の申立件数は879件(前年は784件)
であり、対前年比約12.1%の増加となっている。
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)
昨年に引き続き、後見類型は減り、
保佐類型は増加しました!
過去には保佐又は補助程度の症状の方であっても
重い後見類型としてしまうこともありました。
後見人の側からすると保佐補助ではなく後見の場合には、
本人は自身で契約できる権限を取り上げられてしまい、
後見人だけが代理で契約をすることができるのでやりやすい。
本人の立場からすると、自分で契約をする権限を
奪われてしまうため問題でした。
しかし、保佐・補助の類型であれば、
本人には制限付きですが自身で契約をできる権限が残ります。
今まで、自分のことは自分でやってきた人が
自分で行う権限を全て奪われるというのは
とても困惑します。
自分でやれることは自分でやるというため、
保佐の類型が増加したことは
とても嬉しいことです。
(補助類型は、減少でした)
また法律的な問題として、
成年被後見人と認定されると、
本人からは訴訟能力も取り上げられます。
そして、本人は後見人に対して損害賠償請求などの訴えを
起こすということもできなくなってしまいます。
(民事訴訟法第31条)
この点については今後、改善して行って欲しいところです
保佐・補助ではそのような条文はありません。
また、今回、注目すべきポイントは
任意後見監督人選任審判の申立てが過去最高に伸びたことです。
【引用元】成年後見関係事件の概況(最高裁判所事務総局家庭局)をもとに作成
成年後見制度利用促進専門家会議などを受け、
任意後見契約の広報活動、既に任意後見契約を締結している方へのお手紙など、
法定後見ではない、「自分の意思で決められる任意後見契約」の認知に
国家戦略として取り組んでおり、その成果が表れた結果となりました!
任意後見契約のことを、皆が知って対策している状態になるといいですね。
(2)申立の動機は、預貯金などの管理解約がトップ、全体的に上昇
相談者からよく聞かれる質問で、「後見制度ってどういう場合に必要になるのですか?」
という質問があります。
その答えが下記の表です。
6 申立ての動機について
○ 主な申立ての動機としては、預貯金等の管理・解約が最も多く、
次いで、身上保護となっている。
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)をもとに作成
後見制度の申立ての動機は、
「預貯金等の管理・解約」がトップです。
例えば、寝たきりの父親の預金を下ろしに、
銀行に行ったところ、
銀行員から『本人の意思確認』をしないと下せない旨、
加えて『お父様本人が意思表示できない場合には、
後見制度を利用してもらわないと下ろせません』と
言われ、申し立てに至ったケースが考えられます。
医療費や介護費用、生活費の支出が迫る中、
下せないのは大変です!!
このように銀行窓口で言われたことを、
きっかけとして後見制度の利用をスタートしている方が
一番多いと言えます。
その他の申立て動機も、
手続きや契約の相手先から言われて
申し立てを行ったケースがほとんどであると
現場感では認識しています。
「施設入居時に施設から言われた」
「不動産の処分で、不動産業者や士業専門家から言われた」
など。この傾向を知っていることで、
想定外の事態で後見制度の利用が必要になる事態は
防げると感じています。
また、令和3年度のデータと比べて、
全体的に件数が増えています!
※令和3年度の件数はカッコ()にて表示。
このことから、申立ての動機となる手続き全般にて
本人確認・本人の意思能力の確認を重要視する傾向が
高まっているのかもしれません。。。
想定外に、法定後見にならないように
しっかりと対策をしておきたいところです。
(3)申立人属性は、1位 市区町村長、2位 本人、3位 子という結果に
4 申立人と本人との関係について
○ 申立人については、市区町村長が最も多く全体の約23.3%を占め、
次いで本人(約21.0%)、本人の子(約20.8%)の順となっている。
○ 市区町村長が申し立てたものは9,229件で、前年の9,186件
(前年全体の約23.3%)に比べ、対前年比約0.5%の増加となっている。
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)
令和3年度のデータと比べると、
「本人」が「本人の子」を追い抜き、
1位 市区町村長、2位 本人、3位 子という
順番になりました。
「本人」といっても、
ご本人自身がゼロから全て準備して、
申立てをできるかというと
一般の方には難しいため、
行政等の申立て支援を利用していることが
考えられます。
そうすると、「市区町村長」、「本人」という
行政が関与した申立てがトップ1・2に
なっていると言えます。
申立人属性の推移もまとめました。
平成12年からの推移を見ると、
平成24年を境に親族が減少傾向となっています。
一方で市区町村長の申立て、及び本人申立てが増加し、
全体が横ばいという状況になっています。
【引用元】成年後見関係事件の概況(最高裁判所事務総局家庭局)を
もとに作成
親族の申立てが減少する一方で、市区町村長の申立てが
成年後見等のスタートの一端を担っているとも言えます。
本人に親族がいなかったり、親族が介護に全く関わらないことがあり、
一方でご本人の認知症等が悪化をし、財産を損なっているなどから
しかたなく行政などがかかわって、ご本人の財産を守る支援をすることは
理に適っている点もあります。
しかし市区町村長の申立てが必ずしもプラスに
働いているわけではなく、トラブルもあります。
平成29年に23区内で起こったケースで、
娘が同居していて任意後見契約を結んでいたが、
区の職員が虐待されていると考え、
娘から離すために、市区町村長からの申立てで
成年後見開始の申立てをした事件もあります。
当該、申立ての審議の過程で、
家庭裁判所の調査官が本人である母親に
ヒアリングをしたところ、
「娘に任せたい」という意向を聞くことができ、
虐待の事実も確認できなかったため、
後見開始の申立ては却下されました。
締結していた任意後見契約の通り、
娘さんが後見人になりました。
このように行政も完璧ではないので、
もし頼りたい子供や信頼できる人がいる場合には、
あらかじめ任意後見契約などをしておくことを
推奨します。
将来に向かっての自分の意思を残すことが
自身の生活の安心を守ることにつながります。
(4)制限あり親族後見人が48.9%→51.5%に上昇
続いて、後見人等と本人の関係についてです。8-1 成年後見人等と本人との関係について
○ 成年後見人等(成年後見人、保佐人及び補助人)と本人との関係をみると、
配偶者、親、子、兄弟姉妹及びその他親族が成年後見人等に選任されたものが
全体の約19.1%(前年は約19.8%)となっている。
○ 親族以外が成年後見人等に選任されたものは、全体の約80.9%(前年は
約80.2%)であり、親族が成年後見人等に選任されたものを上回ってい
る。
○ 成年後見人等と本人との関係別件数とその内訳の概略は次のとおりである。
関係別件数(合計) 39,564件(前年39,578件)
親 族 7,560件(前年 7,852件)
親 族 以 外 32,004件(前年31,726件)
うち 弁 護 士 8,682件(前年 8,208件)
司 法 書 士 11,764件(前年11,969件)
社会福祉士 5,849件(前年 5,754件)
市民後見人 271件(前年 320件)
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)
グラフより、親族が後見人に就いた件数が7,560件(19.1%)、
親族以外が後見人に就いた件数が32,004件(80.9%)となっており、
専門家が就いた割合が全体の約8割となっています。
一方で、令和2年度から追加された資料で、
「成年後見人等の候補者について(右側のグラフ)」があります。
このグラフによると、当該申立ての時に
『後見人等候補者に親族』を記載している割合は、
全体の23.1%しかいない。
そもそも、候補者として親族を書いている割合が
少ないということです。
とても興味深いデータなので今年も掘り下げて分析をします。
申立書に親族の候補者を記載している割合は
23.1%とあり、件数が載っていないため算出してみます。
母数が「令和4年1月から12月までに認容で終局した、
後見開始、保佐開始及び補助開始の各審判事件のうち、」とされているので、
下記の表中、『任意後見監督人選任』は除き、
『認容』されたものの合計が母数になると推測しました。
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)
そうすると
そうすると認容数の合計が36,923件となります。
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後見認容26,529+保佐認容7,798+補助開始2,596
⇒合計36,923件
------------------------------
続いて、親族の候補者の記載がされた事件数を計算すると、
8,529件と推測できます。
------------------------------
認容で終結した事件×『後見人等候補者に親族』を記載している割合
=36,923件×23.1%⇒8,529件
------------------------------
上記の数字から、『候補者に親族を記載』し、
『実際に親族が選ばれた』割合を計算すると
88.6%≒約89%となります。
------------------------------
後見人等に親族が選任された件数÷候補者に親族を記載した件数
=7,560件÷8,529件 ⇒88.6%≒約89%
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昨年に引き続き、約9割が選ばれているのは嬉しいことです。
平成31年の成年後見制度利用促進専門家会議にて
『本人の利益保護の観点からは,後見人となるに
ふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は,
これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい』
という考えが示されました。
この意見を受けて、
その親族が選ばれる傾向が高まっており、
統計に表れている。
実際の現場でもそのような傾向が感じられるとの
声も聴きます。
とても好ましいことです。
一方で昨年と同様、「制限あり親族後見人」の数字を掘り下げます。
(制限あり親族後見人=後見制度支援信託、複数後見、後見監督人 の
いずれかを利用していると考えられる親族後見人)
成年後見人等の合計が 39,564件となっており、
一方で、認容で終局した事件数が36,923件です。
その差が2,641件あります。
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39,564件-36,923件⇒2,641件
------------------------------
この差について分析しました。
考えられるのは、(注2)より、
複数の後見人等が選任されているケースです。
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8-1 成年後見人等と本人との関係について
(注2)
関係別件数とは、成年後見人等が該当する「関係別」の個数を集計したものであり、
1件の終局事件について複数の成年後見人等がある場合に、複数の「関係別」に該当
することがあるため、認容で終局した事件総数とは一致しない。
------------------------------
1人の人の後見人等として『親族』と『専門家』が
就いているという状況です。
そこにも、2パターンあります。
1つ目は、信託設定のための後見人、
2つ目は、権限分掌のための後見人等です。
1つ目は、信託設定のための後見人について
後見制度支援信託を活用する場合には、その利用のために『専門家の後見人』が選ばれます。
信託銀行への送金が済むと辞任し、
任務が終了する後見人です。
2つ目は、権限分掌のための後見人等について、
身上監護の権限は親族、財産管理の権限は専門家というように、
役割を決められてしまっている場合です。
権限分掌の場合には、親族後見人がお母さんと相性の良い施設を
探してきても、財産管理権限を持つ専門家後見人が
同意しなければ実現できなくなります。
親族にとっては避けたいパターンです。
まだ後見制度支援信託の利用について
令和4年の統計が公表されていません。
昨年の『後見制度支援信託等の利用状況等について-令和3年1月~12月-』に
よると、新規開始の件数は後見制度支援信託と後見制度支援預貯金とを
合計して、1,173人となっています。
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後見制度支援信託の新規開始人数+後見制度支援預貯金の新規開始人数
=539人+634人⇒1,173人
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令和4年の数字も同数だとすると、
差の1,500件程が権限分掌パターンの複数後見と推測ができます。
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複数後見2,641件-信託設定1,173人
⇒1,468件≒約1,500件
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『後見制度支援信託等の利用状況等について-令和3年1月~12月-』
より
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また、『成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―』
に戻りますが、認容で終局した後見等事件のうち、
成年後見監督人等が選任された事件が1,256件あります。
8-2 成年後見監督人等が選任された事件数について
○ 認容で終局した後見開始、保佐開始及び補助開始事件(36,923件)のうち、成年後見監督人等(成年後見監督人、保佐監督人及び補助監督人)
が選任されたものは1,256件であり、全体の約3.4%(前年は約
3.2%)である。
○ 成年後見監督人等が選任された件数とその内訳は次のとおりである。
件 数 (合 計)1,256件(前年1,174件)
弁 護 士 613件(前年 528件)
司 法 書 士 491件(前年 474件)
社 会 福 祉 士 8件(前年 5件)
社会福祉協議会 100件(前年 126件)
税 理 士 0件(前年 0件)
そ の 他 44件(前年 41件)
【引用元】成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月―
(最高裁判所事務総局家庭局)
監督人が選任された事件の全てが親族後見だったと仮定すると、
複数後見となった件数(信託設定、権限分掌)と
後見監督人等が選任された件数を合計すると、
3,897件となり、親族後見7,560件中の
約51.5%(昨年48.9%)は何らかの制限ありと考えられます。
------------------------------
複数後見となった件数+後見監督人等が選任された件数
=2,641件+1,256件 ⇒3,897件
3,897件÷後見人に親族がなった件数7,560件
⇒51.5%
------------------------------
また、当該統計資料では、
あくまで開始時の統計データになるため、
既に親族が後見人等になっている事件に
家裁の判断で新たに後見監督人等を追加、信託の設定、
権限分掌のための後見人追加がされた件数は
現れてきません。
この内容のデータをお持ちの方が
いたら是非ご連絡ください。
いずれにしても、令和4年度の成年後見関係事件の数値が
公開され、昨年に引き続き利用者目線に近づいている印象は持っています。
ただ、現時点ではまだ利用者目線での、
使いたいと思う制度運用にはなっていないというのが
正直な印象です。
家族信託を検討する家庭で、
後見制度の現状については関心事の1つです。
今回の分析がその一つの参考になれば嬉しいです。
最後までご覧頂きどうもありがとうございました。
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<まとめ>
(1)任意後見監督人選任の審判申立ては伸び過去最高
(2)申立の動機は、預貯金などの管理解約がトップ、全体的に上昇
(3)申立人属性は、1位 市区町村長、2位 本人、3位 子という結果に
(4)制限あり親族後見人が48.9%→51.5%に上昇
——————————
【参考】
成年後見関係事件の概況―令和4年1月~12月
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/20230317koukengaikyou-r4.pdf
後見制度支援信託等の利用状況等について-令和3年1月~12月-
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2022/20220530sintakugaikyou_R03.pdf
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