成年後見制度の改正で事前対策は本当に不要か?司法書士が語る現場の視点
令和 8 年 6 月に国会を可決通過し、成年後見制度の改正案が正式に成立しました。
「後見制度が使いやすくなるのなら、家族信託や任意後見といった事前の対策は、もう必要ないのではないか」——ニュースを見て、そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。
先に結論からお伝えすると、この記事を書いている時点での私の結論(印象)としては、「事前の対策は必要」という点は変わらず、むしろ今までよりも一層必要になったと感じています。
今まで問題が多かった後見制度が改正されて使いやすくなるのか、事前の対策である家族信託や、任意後見、予約型代理サービスはいらなくなるのかについて、現場に出ている専門家目線で解説します。
※本記事は、令和 8 年 6 月に改正法が成立した時点の情報にもとづいています。施行日や実際の運用の詳細は、今後の政令・省令や家庭裁判所の運用によって変わる可能性があります。また、施行前のため、現場に出ている専門家としての私見を含みます。
目次
- 1 1. これまでの後見制度は、なぜ「使いたくない」と言われてきたのか
- 2 2. 令和 8 年の改正で、後見制度はこう変わる(3 つの大きな変更点)
- 3 3. では、改正によって事前の対策は不要になったのか?
- 3.1 結論:事前の対策の必要性は、むしろ高まったと感じています
- 3.2 理由 1:重視されたのは「本人の権利擁護」。使いやすさが上がったかは不明
- 3.3 理由 2:支える側(子・配偶者・きょうだい・甥姪)の立場では、むしろ使いづらくなる
- 3.4 (1)包括的な権限から、最低限の権限へ
- 3.5 (2)原則として代理権がない——銀行手続きは本人と一緒に
- 3.6 理由 3:家族が選ばれるとは限らず、思い通りにやめられるかもわからない
- 3.7 (1)家族が補助人に選ばれるかどうかは、家庭裁判所しだい
- 3.8 (2)話題の「スポット後見」、思い通りにやめられるとは限らない
- 3.9 理由 4:実は今回の改正で「任意後見」が格段に使いやすくなった
- 3.10 (1)任意後見監督人の配置要件の緩和
- 3.11 (2)補助制度との併用が可能に
- 3.12 (3)包括的な代理権の設定
- 3.13 (4)任意後見監督人の人選に関する希望の反映
- 4 4. 家庭裁判所を関与させたくないなら、「家族信託」という選択肢もある
- 5 5. まとめ:改正されるからこそ、「我が家に必要な対策」を考えるとき
- 6 よくある質問(FAQ)
1. これまでの後見制度は、なぜ「使いたくない」と言われてきたのか
家族が後見人になるのが当たり前だった時代は、平成 24 年に終わっていた
2000 年に既存の成年後見制度がスタートしました。はじめは家族がなるのが当たり前の制度であったところから、平成 24 年を境に逆転し、家族ではなく専門家が選ばれることが増加しました。その後、後見人の成り手として家族が選ばれるケースの割合がどんどん減っていき、専門家が選ばれる割合が増えていったのです。現場で感じてきた、後見制度 4 つの「使いにくさ」
こういったことから、現在の後見制度については「あまり使いたくない」という声が増えていった印象です。具体的には、下記のような 4 つの問題があったと感じています。- 家族が後見人に選ばれるかどうかがわからない
- 一度後見制度をスタートしてしまうと、本人が原則亡くなるまでずっと制度を使い続けなければいけない
- もし後見人に専門家がなった場合には、毎年の報酬がずっとかかる
- 後見人が本人の意向を無視して、様々な手続きをできてしまう
国連からの指摘が、今回の改正を動かした
このような問題から、国連の障害者権利委員会より「日本の後見制度は後見人の権限が強く、本人の権限が不当に制限されている」などの指摘があり、今回の後見改正に大きく影響しています。2. 令和 8 年の改正で、後見制度はこう変わる(3 つの大きな変更点)
変更点 1:本人が亡くなるまで続く制度ではなくなる
1 つ目として、前述の「本人が亡くなるまでずっと続く」というところが改正され、家庭裁判所が必要性がないと判断した場合には、後見を終わらせるという法律規定が明文化されました。変更点 2:3 類型が「補助」に一本化され、代理権は原則としてなくなる
2 つ目。後見人が本人の意向を無視して様々な手続きをできてしまう、まさに国連からの指摘があった問題点について大きく改変されます。既存の後見制度は「後見類型」「保佐類型」「補助類型」という 3 類型・3 段階に分かれていました。このうち「後見類型」と「保佐類型」についてはこれを廃止し、残った「補助類型」にてすべての方(認知症などの軽度から重度の方、また軽度から重度の知的障害などをお持ちの方)をカバーすることになりました。
その結果、次の 2 点が大きく変わります。
- 原則として包括的な代理権を廃止し、本人が主体的に契約当事者となり、それを見守るという「同意権」や、補助人の知らないところで本人が勝手にしてしまった契約を取り消すことができる「取消権」が権限の原則になったこと
- 家庭裁判所から決定を受け、本人を代理して行動する場合には、必ず本人に「意向確認行動」をすることが明文上も義務化されたこと
変更点 3:補助人の報酬は「実際にやった仕事」も考慮材料に
3 つ目。新しい補助人の報酬について、補助人がやった事務を考慮することが明文上も明記されました。以上のような形で、既存の後見制度の問題を全部解決できたわけではないですが、国連から指摘のあった問題点を中心に抜本的な改正がされる形になります。
3. では、改正によって事前の対策は不要になったのか?
では、今回の改正を受けて、これからは事前の対策はしなくていいのか。もし親が認知症などで判断能力が難しくなってしまった場合には、新しい補助制度を利用すれば、家族の意向通りに手続きができるのかどうかについて検討します。
結論:事前の対策の必要性は、むしろ高まったと感じています
この記事を書いている時点での私の結論(印象)としては、「事前の対策は必要」という点は変わらず、むしろ今までよりも一層必要になったと感じています。理由は下記の通りです。大きい点で言えば、対策をしなかった場合と対策をしていた場合とで、家族の負担が大きく変わるというのが一番の理由です。
理由 1:重視されたのは「本人の権利擁護」。使いやすさが上がったかは不明
今回の改正の特色は、本人の権利擁護を重視した点にあります。一方で、使いやすさを向上したかどうかというのは不明確であると感じています。理由 2:支える側(子・配偶者・きょうだい・甥姪)の立場では、むしろ使いづらくなる
今回の改正により家族が補助人になれたとしても、その手間や負担は以前よりも大きく増えると感じています。具体的には、次の 2 点です。(1)包括的な権限から、最低限の権限へ
今までの後見制度は、後見人に包括的な大きい権限を付与し、後見人側でそこから必要なものを選択して使っていく形でした。一方で、これからの改正後見制度では、新しい補助人には最低限の権限のみを与え、もし不足している場合にはその都度、家庭裁判所に申し立てて権限を獲得することが必要になりました。(2)原則として代理権がない——銀行手続きは本人と一緒に
銀行手続きについても本人が自分で引き出すなどの手続きをすることが主流となります。補助人である家族はそこに同行して、間違いがないか、特殊詐欺の振り込みでないかなどを確認し、GO を出すという権限にとどまる形になります。これを実行するためには、本人と補助人とが時間を合わせなければならず、また本人の足腰が悪い場合には移動手段も考えなければならなくなりました。
このような点から、支援する側の負担は高まったと感じます。もし包括的な代理権を持って手続きをするのであれば、事前に任意後見契約をしておいた方が、希望通りになる可能性が高いです。
理由 3:家族が選ばれるとは限らず、思い通りにやめられるかもわからない
(1)家族が補助人に選ばれるかどうかは、家庭裁判所しだい
今までの問題にあった「後見人に家族が選ばれるのか」についてです。まず、本人が意向を表示することができ、家族を指定した場合には、家族が選ばれる可能性は大きく上がります。
一方で、本人が意向を表示できない場合には、家庭裁判所が判断して新しい補助人の選定を行います。その際、家族が自身を候補者として指定したとしても、必ずしも選ばれるかどうかは分かりません。
家庭裁判所としては、紛争性の有無や本人の財産状況、申し立てに係る同意権や取消権、代理権の内容などをもとに、候補者である家族の資産状況などを確認して判断することになります。おそらく紛争性があったり、資産額が多かったり、種類が現金、不動産、有価証券など多岐にわたる場合には、選ばれる可能性が低くなると推察しています。そうすると、家族ではなく専門家が選ばれるということになりかねません。
(2)話題の「スポット後見」、思い通りにやめられるとは限らない
また、ニュースや新聞などでよく取り上げられている重要な点として、改正により後見制度が途中でやめられるようになった「スポット後見」などの名称が出ています。ただ、この点についても誤解があるような印象があります。
法制審議会の議論などを見ていると、どうやらこちらの意図通りにやめられない可能性が高いのではないかと感じています。そう思う理由は、後見制度をやめるためには 3 つのハードルを超える必要があることです。具体的には、成年後見制度の終了(補助制度の終了)には以下の 3 つのハードルがあります。そのため、ご家族の希望などにより必ずしも終わらせられるわけではありません。
- 担当補助人による「必要性がなくなったこと」の報告
- 本人の住んでいる地域の中核機関による「受入体制・代替支援」の確認
※新しい補助人から報告を受けた家庭裁判所が、本人の住む地域の中核機関に確認し、補助制度が終了した後の受入体制や代替支援が存在するか(受け入れられるか)を確認します。 - 担当裁判官による判断
※前述の担当補助人および地域の中核機関からの報告を受けて、担当裁判官が「必要性がなくなった」と判断できるか。
理由 4:実は今回の改正で「任意後見」が格段に使いやすくなった
また、今回の法改正により「任意後見制度」がとても使いやすくなりました。
法制審議会の意向としては、任意後見をどんどん普及させたいという思惑があります。今回の改正ではあまり大きく触れられていませんが、実は任意後見制度の問題点が大幅に解消され、非常に使いやすい制度に進化しています。
その背景には、やはり本人の生前の意向を反映し、「誰に後見人を任せたいか」などをあらかじめ決定しておく制度が任意後見だからです。
具体的な改正点は以下の 4 つです。
(1)任意後見監督人の配置要件の緩和
今までは任意後見監督人を必ず置かなければならなかったのが、原則は「置く」ものの、家庭裁判所が認めた場合には「置かない」という取扱いができるようになりました。(2)補助制度との併用が可能に
今までは、任意後見をスタートした後に法定後見開始の審判(補助開始の審判など)がされた場合には、任意後見は終了するという規定でした。しかし、その規定が廃止され、任意後見と新しい補助制度を併用することができるようになりました。これにより、任意後見を利用していても強力な「取消権」が使える可能性が生じるほか、任意後見でカバーできていなかった手続き権限を後から補填できるようになります。
(3)包括的な代理権の設定
任意後見では、初めの契約書の中で代理権を設定することができます。そのため、契約書に盛り込むことで、支援するご家族などに包括的な代理権を与えることができます。(4)任意後見監督人の人選に関する希望の反映
任意後見監督人の候補者の希望について、公正証書などに盛り込むことができるようになりました。家庭裁判所としては、そういう希望がある場合にはそれを配慮して監督人を決定する形になります。このように問題だった点を改善し、任意後見制度をもっと普及させたく、ハードルを下げたと考えられます。
上記のような 4 つの理由から、事前の対策は必要であり、さらに今後ますます重要になってきます。対策をしているご家族としていないご家族とでは、その差が大きく開くようになる、と結論づけています。
4. 家庭裁判所を関与させたくないなら、「家族信託」という選択肢もある
家庭裁判所の関与を防ぎたい、家族の中だけで何とかしたい、こういった希望がある場合には、家族信託での対策も有効です。
家族信託とは、守りたい財産をあらかじめ決めておき、子どもとの間で家族信託契約を結んでおく方法です。こうしておくと、親が認知症などになっても、任された財産については子どもの判断で必要に応じて動かすことができます(預金の引き出しや払い込み、不動産を親の代わりに売却して、その代金を子どもが管理することなどが可能になります)。
※詳しくは下記のページに動画解説付きで家族信託について紹介しています
↓
家族信託の仕組みや注意点を動画で簡単解説
また、実は後見制度の改正を議論する法制審議会でも家族信託のことは取り上げられています。審議会では「監督機能がないため抑制的にすべき」という意見が出ていた一方で、改正へのパブリックコメントでは「家族信託についてもっと普及を進めていくべき」という積極的な声も出ていました。
いずれにせよ、家族信託は家庭裁判所が入らず柔軟に設定できる制度ではありますが、家族内の信頼関係が極めて重要になります。
5. まとめ:改正されるからこそ、「我が家に必要な対策」を考えるとき
今回の後見制度の改正によって、本人の権利尊重を強化する内容になりました。新しい補助人には最低限の権限しか与えず、行動量を増やすことで本人の権利をカバーし、本人の意向を確認するステップを経て進める、というものになった印象です。
一方で、子どもなどが支える場合には、仕事や育児などもある中で行動量が増えるため、負担が重いものになり、使いづらい側面も出てきたなという印象もあります。そのため、現時点で我が家にはどんな対策が必要なのかを、しっかり考えてほしいと感じています。
事前に対策をしていなかった場合には、新しい補助制度となった際に上記のような負担を受け入れざるを得ない形になります。
ここまでの意向確認というか、本人自身の主体的な契約行為などを本人が求めておらず、家族に託したいという希望が強い場合には、事前に対策をしておいた方がベターです。
具体的な対策としては、以下のように多岐にわたります。
- 任意後見制度
- 家族信託
- 予約型代理人サービス
- 生命保険
- 遺言
- 生前贈与
これらは多岐にわたってきますので、ぜひ一度専門家に相談して進めた方が、スムーズに最適な方法を見つけられることが多いです。もし専門家にも一度話を聞いてみたいと思う場合には、ホームページのお問い合わせフォームからご連絡ください。Zoom などを利用して全国どこでも対応しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 後見制度が改正されるなら、家族信託や任意後見はもう必要ありませんか?
A. 私は、必要性はむしろ高まったと感じています。改正後の新しい補助制度は本人の権利擁護を重視した内容になった一方で、支える側であるご家族の手間や負担は、以前よりも大きく増えると考えているためです。Q2. 改正後は、家族が必ず補助人に選ばれますか?
A. 必ずしもそうとは限りません。本人が意向を表示でき、家族を指定した場合には選ばれる可能性は大きく上がります。一方で、本人が意向を表示できない場合には家庭裁判所が判断するため、資産額が多かったり、財産の種類が現金・不動産・有価証券など多岐にわたる場合には、家族ではなく専門家が選ばれる可能性もあると推察しています。Q3. 「スポット後見」で、途中で後見をやめられるようになったのではないですか?
A. その点については誤解があるような印象があります。補助制度を終了させるには、①担当補助人による「必要性がなくなったこと」の報告、②地域の中核機関による受入体制・代替支援の確認、③担当裁判官による判断、という 3 つのハードルがあり、ご家族の希望どおりに必ず終わらせられるわけではありません。Q4. 家庭裁判所に関わってほしくない場合は、どうすればよいですか?
A. 家族信託での対策も有効です。家庭裁判所が入らず柔軟に設定できる制度ですが、その分、家族内の信頼関係が極めて重要になります。Q5. 今から準備できる対策には、どんなものがありますか?
A. 任意後見制度、家族信託、予約型代理人サービス、生命保険など、多岐にわたります。ご家族の状況によって最適な組み合わせが変わりますので、一度専門家にご相談いただくのがスムーズです。SEARCH
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NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」早くから認知症対策のへの必要性を感じ、10年以上前から家族信託に取り組む。取扱い実績の総額は100億円を超える。
家族信託業界の先頭に立ち、相談者様が安心して使えるようグレーゾーンを明確化にも注力。税理士と協力して行った国税照会により公表されたルールが業界のスタンダードにもなっている。
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