家族信託の全体設計(⽬的・関係者・受益構造・終了事由まで)
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「人生100年時代」と言われる現代、長生きは喜ばしいことですが、同時に新たなリスクも生じています。その最大のリスクの一つが「認知症による資産の凍結」です。
親が認知症になり判断能力を失うと、預金の引き出しや不動産の売却ができなくなることをご存じでしょうか。この「資産凍結」を防ぐ切り札として、近年注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。
しかし、「信託」と聞くと、「難しそう」「富裕層向けの話では?」と敬遠される方も少なくありません。 実は、家族信託は「家族の、家族による、家族のための財産管理」の仕組みであり、決して難しいものではありません。 本記事では、家族信託の全体像を、その目的から具体的な仕組み、そして終わらせ方に至るまで、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説します。
家族信託の「目的」:なぜ今、必要なのか?
家族信託を設計する上で、最初に考えるべきは「何のために行うか」という目的です。主に以下の3つの目的で利用されています。① 資産凍結の回避(認知症対策)
これが最大の目的です。 例えば、親が施設に入る費用を捻出するために実家を売却しようとしても、その時点で親が重度の認知症になっていると、売買契約ができません。預金口座も凍結され、家族であってもお金をおろせなくなります。 成年後見制度という公的な制度もありますが、家庭裁判所の監督下に置かれ、専門家への報酬が発生し続けるなど、家族にとっては使い勝手が悪い側面があります。 家族信託を使えば、親が元気なうちに財産の管理権限を家族に移しておくことで、親が認知症になっても資産が凍結せず、スムーズに管理・処分が可能になります。② 円滑な資産承継(争族の防止)
遺言書も相続対策の有効な手段ですが、実は「書き換えられてしまうリスク」があります。公正証書遺言を作っても、認知症気味の親が誰かにそそのかされて新しい遺言を書いてしまえば、新しいものが有効になってしまうことがあるのです。 家族信託は契約ですので、簡単に変更できません。確実に特定の財産(実家や自社株など)を特定の後継者に引き継がせたい場合、遺言よりも確実性が高いと言えます。③ 親なき後の支援(障がいのある子の生活保障)
「自分たちが亡くなった後、障がいのある子どもの生活はどうなるのか」という「親なき後問題」にも家族信託は有効です。 財産を信頼できる親族に託し、そこから生じる利益(家賃収入など)を子どもの生活費として給付する仕組みを作ることができます。登場人物と役割:「お財布」と「中身」で理解する
家族信託の仕組みを理解するには、3人の登場人物(役割)を押さえる必要があります。 ここでは、「親の財産を子が管理する場合」を例に、「お財布(名義)」と「中身(価値)」という考え方で説明します。- ◯委託者(いたくしゃ)=「頼む人」 財産の持ち主である「親」です。自分の財産を信頼できる相手に託します。
- ◯受託者(じゅたくしゃ)=「託される人・管理する人」 財産を預かって管理する「子」です。 ここが最大のポイントですが、不動産や預金の名義は形式的に「受託者(子)」に移ります。しかし、それはあくまで「管理するためのお財布」の名義が変わっただけで、その財産が「子どものもの」になったわけではありません。
- ◯受益者(じゅえきしゃ)=「利益を受ける人」 財産から生じる利益(生活費、家賃収入、売却代金など)を受け取る権利を持つ人です。 通常は、「委託者(親)」がそのまま「受益者(親)」になります。
【ここが重要!税金の話】
「名義を親から子へ変えたら、贈与税がかかるのでは?」と心配される方がいます。 しかし、家族信託では受益者も親、つまり「実質的な価値(利益を受ける権利)」は親のままなので、贈与税はかかりません。 ケーキに例えるなら、「ケーキの箱(名義)」は子どもが持っているけれど、「中身のケーキを食べる権利(受益権)」は親が持っている状態です。食べる人が変わっていないので、贈与にはならないのです。受益構造の設計:財産をどう使い、どう遺すか
家族信託の設計図を描く際、「誰が利益を受けるか」という受益構造は非常に柔軟に決められます。基本形:自益信託(親のための信託) もっとも一般的なのは、委託者=受益者となる形です。 親の老後資金や介護費用を確保するために、親の財産を子が管理し、その利益を親のために使います。
応用形:受益者連続型信託(数珠つなぎの承継) 家族信託の大きな特徴として、「次の次」もしくは「次の次の次」まで財産の承継先を決められる点があります。
例えば、
◯最初の受益者:父(父が亡くなったら…)
◯第2の受益者:母(母が亡くなったら…)
◯残った財産の帰属先:長男 というように、バトンリレーのように財産を受け取る人を指定できます。 通常の遺言では「妻に相続させる」とは書けても、「妻が死んだら長男へ」とまでは拘束できません。しかし家族信託なら、先祖代々の土地や自社株が、意図しない親族に流出することを防ぐことができます。
信託財産の管理方法:どうやって守る?
契約を結んだ後、具体的にどのようにお金を管理するのでしょうか。信託口口座(しんたくぐちこうざ)の活用
受託者(子)は、自分の固有の財産と、預かった信託財産を明確に分けて管理する「分別管理義務」があります。 そのため、金融機関で「信託専用の口座(信託口口座)」を開設するのが一般的です。 この口座の名義は「委託者 父〇〇 受託者 子△△」のように連名で記載されることが多く、親にとっても「お金を取られたわけではない」という安心感につながります。 この口座にあるお金は、親が認知症で判断能力を失っても凍結されず、受託者である子が窓口となって、親の医療費や介護費用のためにスムーズに出金できます。不動産の場合
実家などの不動産は、法務局で「信託の登記」を行います。 登記簿には、所有者として受託者(子)の名前が載りますが、同時に「信託目録」が作成され、そこには「この不動産は信託財産であり、真の利益を受けるのは受益者(親)である」といった内容が明記されます。 これにより、もし受託者(子)が借金を背負って破産したとしても、信託財産である実家は差し押さえられない(倒産隔離機能)という強い守りが働きます。終了事由と出口戦略:どうやって終わらせる?
信託は「始めたら終わり」ではなく、「どう終わらせるか」まで設計しておく必要があります。これを「出口戦略」と呼びます。主な終了事由
一般的には「受益者(親)の死亡」を終了事由としていることが多いようですが、私どもは原則は、終了させずに継続するようにしています。 なお、信託の出口で最もおすすめは、信託財産のまま第三者に売却することです。出口における注意点(不動産売却のタイミング)
実家を信託した場合、売却するタイミングによって税金の特例が使えるかどうかが変わるため、注意が必要です。 特に、「空き家特例(譲渡所得の3000万円特別控除)」を利用したい場合は要注意です。 この特例は「相続によって取得した人が売却する」ことが要件の一つです。 信託契約の中で、「親が亡くなったら信託を終了し、実家を子が取得する」とすると特例は使えません。しかし、信託が継続したまま受益権を相続(遺言や遺産分割協議)で承継させる場合には、特例が使える可能性があります。実家を将来どうするつもりなのか(売るのか、住み続けるのか)によって、信託の終わらせ方や条項の作り込みを慎重に検討する必要があります。家族信託のリスクと対策
万能に見える家族信託にも、注意点やリスクはあります。受託者(子)の負担と責任
受託者は、財産を管理し、帳簿をつけ、年に一度は受益者に報告する義務があります。 「通帳を預かっておくだけ」といった安易な気持ちではなく、責任ある管理者としての自覚が必要です。家族間の不公平感
特定の子供だけが受託者となり財産を管理することに対し、他の兄弟姉妹が「財産を囲い込んでいるのではないか」と疑念を抱くことがあります。 これを防ぐためには、信託契約の内容を家族全員で共有し、オープンにすることが重要です。場合によっては、他の兄弟を「信託監督人」や「受益者代理人」を設定し、チェック機能を働かせることも有効です。契約能力の有無
最も重要なのは、「親に判断能力があるうちにしか契約できない」という点です。 認知症の診断が出ている場合でも、軽度で意思能力があれば契約できる可能性はありますが、後々、トラブルにならないように公証役場で公正証書にすることを勧めています。完全に判断能力を失ってからでは、家族信託は利用できず、成年後見制度しか選択肢がなくなってしまいます。 「まだ大丈夫」と思っているうちが、対策のタイムリミットなのです。まとめ:家族会議から始めよう
家族信託は、認知症による資産凍結を防ぎ、親の財産を親のために使い切り、そして円満に次世代へ引き継ぐための非常に有効なツールです。 しかし、その設計には法務・税務・不動産の知識が必要となり、専門家のサポートが不可欠です。まずは、年末年始やお盆など家族が集まるタイミングで、「もしもの時、実家や預金はどうする?」と話し合う「家族会議」から始めてみてはいかがでしょうか。 親の「想い」を聞き、家族全員でその「想い」を実現する方法を考える。その選択肢の一つとして、家族信託を検討してみてください。 早めの対策が、親の安心と家族の未来を守ることにつながります。
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代表者紹介
NHK「クローズアップ現代プラス」に出演。「家族信託のトップランナー、司法書士」早くから認知症対策のへの必要性を感じ、10年以上前から家族信託に取り組む。取扱い実績の総額は100億円を超える。
家族信託業界の先頭に立ち、相談者様が安心して使えるようグレーゾーンを明確化にも注力。税理士と協力して行った国税照会により公表されたルールが業界のスタンダードにもなっている。
実績、お客様へのアフターフォローサービス、家族信託のお手伝いをしたお客様の声は、『代表者紹介ページはこちら』ボタンをクリック
メディア出演履歴
■テレビ出演
・NHK「あさイチ」
・NHK「クローズアップ現代プラス」
・NHK「ニュースウォッチ9」
・NHKラジオ「三宅民夫のマイあさ!」
・日本記者クラブにて記者会見
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